@





       
ENGLISH
In preparation
運営団体
メロウ伝承館プロジェクトとは?
記録のメニュー
検索
その他のメニュー
ログイン

ユーザー名:


パスワード:





パスワード紛失

チョッパリの邑 (16) 椎野 公雄

投稿ツリー


このトピックの投稿一覧へ

編集者

通常 チョッパリの邑 (16) 椎野 公雄

msg#
depth:
1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/5/23 8:05
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 チョッパリ!」の声とともに地獄へ

 翌日は朴さんも心配して駆けつけ、何処かからリヤカーを手配してきてくれた。
 隣近所もみな同じような苦労をしたらしく、疲れ果てた顔をして夫々に荷物を纏《まと》めて集合してくる。
 工場も、特に昭和二十年に入ってから生産規模縮小や若年者の徴用で職員数が減っていたが、それでも社宅の日本人は二〇〇人以上いたから、移動も大変なことだ。
 地域別に五班に分かれて行動することになり、私たちは第一班に組み込まれた。
 引率のため各班に二人づつ会社の人が付いてくれて、早速点呼のあと色々と注意事項が伝えられる。
 「ご老人、幼児、ご病気の方には車を用意してありますが、その他はできるだけ歩いて下さい」、「所要時間は約一時間です。今日の移動については現地の人たちも承知していますが、何らかの挑発《ちょうはつ》があっても応じないで下さい」、「忘れたものがあったら、少しの時間なら待ちますから取ってきて下さい」。
 残してきたものに未練はあるが、既に充分点検して持てるだけのものを持ってきたから、皆も「あとは仕方がない」といった顔で聞いている。
 「では出発します」引率の人の声とともに、私たちの第一斑から、あたかも屠殺場《とさつじょう》に曳《ひ》いていかれる牛の群れの如く、ただただ黙々と動き始めた。
 職員社宅から工員社宅までの道程には途中小さな朝鮮人部落があって、どうしても一部はそこを避けて通ることができない。私たちが差しかかると何人かが家から出てきて、物珍しげに、ある者は侮蔑《ぶべつ=あなどってさげすむ》の眼差しで見ている。
 一人の子供が叫んだ。
 「チョッパリ!」。
 一瞬私は耳を疑った。この言葉こそ日本人の蔑称《べっしょう=相手をあなどっていう言葉》だったからだ。
 この言葉の意味はこうだ。朝鮮人の履物は先が上向きに尖《 とが》っていようが丸かろうが全ての指が一体になる「靴」であるが、日本人は下駄や草履を履く習慣があって、指が二股《ふたまた》に分れる姿が彼らには異様と映る異人であったし、この「二股」を朝解語で「チョッパリ」といって日本人のことを指していた。ただ、今までは陰では言っても公の場で聞くことはなかったから、正直この言葉を聞いた時はハッとして、改めて環境が変わったんだと実感しないわけにはいかなかった。そして、その後はこのチョッパリが「バカヤロウ」と同意語になって毎日のように私達に浴びせられた。
 この時発せられた子供の甲高《かんだか》い「チョッパリ!」の声とともに、私たちの北朝鮮における生活は、それまでとは一八○度、いや天と地が逆さまになったように変わってしまったのである。

--
編集者 (代理投稿)

  条件検索へ