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チョッパリの邑 (21) 椎野 公雄

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通常 チョッパリの邑 (21) 椎野 公雄

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/5/28 7:07
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
ブタ小屋地獄の冬

 そうこうしながら、十月に入ると又々寒い北風が吹き始め、北朝鮮三度目の冬がやってきた。
 寒さには慣れてきたとはいうものの、環境と健康状態が前年までと大きく違うから、寒さは骨の髄《ずい》まで染み込む感じ。「豚小屋」は入り口の筵《むしろ》を外して手製の板扉を打ち付けはしたが、それでも隙間風が否応なく入り込んでくるので、家の中でも何枚か着込んで寒さを凌《しの》がなければならない。寝る時も布団をかける分一枚ぐらいは脱いでも、昼間とあまり変わらない姿で六人がごろ寝することになる。

 家の中には風呂がなく、ゆったりとお湯に浸かった記億もないから、たまにお湯で身体を拭くだけでは当然の如く身体も温まらないばかりか、清潔とは無縁ということでもあって、必然的に蚤《のみ》、虱《しらみ》、南京虫《なんきんむし》が湧いて寝ながらボリボリ。或る晩など、痒《かゆ》くて眠れないので起きて下着を調べると、縫い日に沿って白い虱と黒い南京虫が行列している。眠い目をこすりながら爪でプツリ・プツリ、作業に小一時間はかかったろうか。作業が済んで横になったが今度は日が冴えて眠れない。暗い天井を見ながら耳を澄ますと「サワサワ」と何かが動いている音がかすかに聞こえる。気持ち悪くなって父を起こすと、音を間いて、「ああ、南京虫が障子《しょうじ》を這ってる音だ」というと「そんなことで起こすな」とばかり平気な顔をして、またブウブウ寝てしまった。
 とにかくひどい家で不衛生な生活環境だったし、栄養状態も良くなかったけれども、一家揃って病気らしい病気をしなかったのは不思議といえば不思議、結局は気が張っていたお陰であったのだろう。

 その頃になると、相変わらず「チョツパリ」の声は聞こえたものの、朝鮮人の嫌がらせも少しずつ減って、周辺の山に出かけ竈《かまど》とオンドル用燃料として薪を調達することぐらいはできるようになっていたから、子供の仕事として毎日のようにやらされた。
 取ってきた薪は鋸《のこぎり》で適当な長さに切り、斧《おの》で割る。もともと運動は好きだったし感も悪くなかったから薪割りは得意で、隣近所の手伝いも買って出るほど。感謝されれば嬉しくなって、得意先は増えていった。

 遊びの方も「ケイシン」は相変わらず怖かったけど、段々と行動範囲が広がっていった。周りには用水池がたくさんあって、氷さえ張ればリンクに困ることはない。しかしスケート靴がなかったから、またソリを作って滑ることしかできなかった。
 用水池は小さいものが多くて凍るのも早い。といっても周囲から凍り始め、子供といえども何人かが一緒に乗って池全体が大丈夫となるには半月はかかる。待ち遠しくて未だミシミシ音がする水に乗ってはズブズブと落ち込んだこともあったが、今考えるとよく風邪を引かなかったものだ。
 池の水で不思議だったのは、最初は平面に凍るが、寒さも増して木枯らしが何度か吹くと、氷が池の真中から次第に淵《ふち》へ吹き寄せられ丁度スノーボード用のハーフパイプ型の氷が出来上がる。従ってスケートで滑るよりソリの方が面白いから、早くハープパイプになれと願ったものである。

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編集者 (代理投稿)

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