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歌集巣鴨・3

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編集者

通常 歌集巣鴨・3

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2009/7/12 21:04
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

  夏

 街中の焼跡はなべてさし穂立つ麦生となりて四たび夏は来      林 義則

 日の花とわれひとり呼ぶ星形の芝生の花よ夏は来たりる      鈴木 義輔

 肩の上のインコしきりにキスをもとむ目にしみて青き藤かげにしも      大石 鉄夫

 蔓ばらの咲ける窓よりタイプ打つ音流れ来る静かなる午後      田中 謙太郎

 庭苑の美女桜目に滲みて朱しわが妻は遂にこの月も来ず      佐々木 勇

 ゆらめきてわが肉体に戻り来る孤独なりけりダリヤに佇てば      大石 鉄夫
 
 帰国第一年の梅雨 
 三階の窓より見ゆといふ富士ヶ嶺を未だ見ぬ間に梅雨に入りけり      今野 逸郎

 五月雨るる獄舎に読むや「ケマルペシャ」アンガラの町も今は遥けし      額田 担

 くだちゆく世を歎かへば獄窓に雨はしきりに降りそそぐなり      後藤 伴五郎

 机の上の埃を拭ひてあてもなく腰をおろしき梅雨まだ霄れず      田中 勘五郎

 Off limits の中庭の苔ひろごりて緑うるほふ路砂(みちすな)の上      諌山 春樹

 佗しらに籠り居すれば眼交の壁のさ蠅も親しきものを      橋本 欣五郎

 鯉のぼり焼野の假の一つ家に大和男子のありとはためく      荒木 貞夫

 百日紅の花さゆるまで空のいろ蒼に透りて今日も晴れつぐ      松井 正治

 百日紅燃えて咲ければ上海の刑場に逝きし友ぞおもほゆ      丸山 茂

 黙々と朝を歩ける獄庭にふと目につきし白百合の花      渡辺 正

 高獄塀(こうべい)に続く芝生の花石榴けふ降る雨にここだ散りたり      神住 善治

 睡蓮の紅ゐ開きゆくときに今日の一日(ひとひ)の陽は出でむとす      平尾 健一

 死刑より減刑の翌朝
 青空を映(うつ)ししづもる池水にけさは蓮(はちす)の花咲きにけり      友森 清晴

 雲の峯水にうごかず睡蓮もその花かげの鯉も動かず      加藤 三之輔

 たわむれに指を浸せば次ぎ次ぎに指に寄りくるこれの緋鯉ら      吉田 三省

 アドバルーン大きくゆれて層雲の奥処ゆ起る雷鳴しきり      毎田 一郎

 雷(なるかみ)の音もさやけし変化なき獄(ひとや)の日々をこもりて居れば      小谷 義郎

 眠られず鉄の格子により佇てば遠き夜空に稲妻走る      大原 元溶

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