歌集巣鴨・51
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編集者
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異 国(その二)
明けやらぬ南の空にこだまして萬歳叫び友逝きにけり 鈴木 亀
(西貢)
乏しかる線香供へ在りし日の戦友(とも)偲ぶ夜を雨降りしきる 倉林 幸三郎
(プロコンドール島)
血達磨となるも語らずあくまでも友を護リて死にし秦君 山本 二郎
(バンジエルマシン三首)
MPにせきたてられて別れしが吾が手に残る君のぬくもり 同
ありし日の君を偲びて監房に遺稿読みつつ涙せきあへず 同
銃刑の跡にたまりし血の中にゆくりなく見し軍服のボタン 渡辺 正司
(ポンチャナク四首)
血ににほふひつぎの前に老将か頭をたれて合掌し居り 同
ねもごろに納棺し居れば執行を終えし彼等が乾杯し居り 同
亡骸(なきがら)は運び去られてMPが血染の手錠洗ひて居たり 同
マタハリを胸にかざしてわが戦友(とも)はつねの如くに死に就きにけり 鈴木 武夫
(バタビヤ四首)
暁の死房に聞こゆる「海行かば」悲しきいのち今日も逝くらし 浜田 貞
この朝(あした)友死に就くと「海行かば」唄ふ囚屋に嗚咽高まる 小林 宗平
君が逝く永遠(とは)の旅路を浄めむとかくも降りしく時雨なるらむ 鳥井 衛
死刑独房への道
悲しみに通ふこの道ゆきゆけば夕去りがてに山鳩ぞ啼く 酒井 光
元憲兵少佐長幸之助氏を悼む 三首
山峽の時雨るる街にあひ逢ひし君がゆかりのかりそめならず 同
絶対の運命(さだめ)と覚悟(きめ)てひたすらに生命守れる君にし哭かゆ 同
多々良浜に祖國(くに)を護りし武士(もののふ)の若き血潮の君が荒魂 同
キリストも釈迦も頼まず遺書も書かず刑死したりし勝村少佐 富田 善雄
(ジャカルタ)
死に就くとひと足ごとに遠ざかる君が返り見し最後の笑顔 水元 年男
(バタビヤ五首)
北の國小樽の町に神かけて君待つ人に如何告げなむ 伊藤 金七郎
せめても君が御霊をなぐさむと愛でて植ゑゐし太陽花(マタハカ)を供ふ 武 勉
亡き数に入るかと見えしわれながら御霊祭りに会(あ)へる今日かも 鳥井 衛
インドネシヤ独立す
亡き戦友(とも)のみたま籠れる椰子の島に今たからかに雄叫び聞ゆ 水元 年男
次々に死の判決を下されし雨季のメダンを憶ひ出でをり 神住 善治
(巣鴨)
極刑の友におよぶをおそるれば自己を証(あか)さず君は逝きけり 安達 孝
(スマトラ二首)
安らかに眠れとなどか祈るべき御魂をのこし逝きし君故 関 一衛
頸動脉を切りて死にたる友の顔或ひは云はむ静かなる死と 森重 義雄
(サバン島)
土民らの怒声ききつつ墓を掘るただひたすらに頭を伏して 武 勉
(メナド)
音に哭きて山に対へば雲立ちぬ君があたりか雨いそぐらし 谷口 武次
(オンルスト島二首)
いく度かかの島ぬちの君が眠る土に散りけむ火焔樹の花 同