歌集巣鴨・27
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編集者
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思 郷 惑 懐
贈られし慰問の品に只泣きぬ故國をしのぶかほり豊かに 鈴木 庄八
(マカッサル)
内地より慰問品来たりて
梅干の味はなつかし稚き日の母が手になる辦當思ほゆ 溝口 登
(バタビヤ・チピナン二首)
鉄窓(まど)の外(と)の鈴虫の音にはてしなく郷愁つのるチピナンの夕 林 鉄夫
チピナンより移されて
移り来し孤島の浜に吾佇ちて祖國に續く海を見てをり 白井 宏道
(バタビヤ港外オンルスト島)
月蒼きランパールの夜を鳴く虫の戦(いくさ)やぶれし心に沁むも 福山 勝好
(セレベス・ランパール二首)
みんなみの月蒼く冴えつはものの声なく惨と地に落す影 同
トッケイの高声(ね)しきりに鳴き透る獄舎の夜は更けにけるかも 安藤 周二
(バタビヤ・チピナン)
獄に来て素朴なるネシヤの心情に微笑交すゆとり甦る 関 一衛
(スマトラ・メダン)
理由なくわれらを蹴とばす監視兵を馬と名付けて怖がりしかも 南部 一十四
(アンポン)
石壁の独房(へや)に一つの一尺の窓より仰ぐ一尺の空 中込 正義
(バタビヤ・チピナン)
ポンチャナク獄舎の壁に釘書の捬仰不愧天地の文字あり 渡辺 正司
(ボルネオ・ポンチャナク)
夏の日に燃ゆるカンナのこの墓に三十二人目の獄友鎭もりぬ 鈴木 一郎
(マカッサル・テロ)
さらばひし君と向ひゐて悲しかりかげる蔭なき白日の下 武 勉
(メナド)
石の床に日々衰ふを老いらくの生きのむくろといたはりにけり 坪川 豊久
(バタビヤ・チピナン二首)
常の如く空にまたたく十字星父の訃報をけふ受け取りぬ 小林 宗平
マラッカの海に月照る夜を航きて敗残のわれ心さびしも 安達 孝
(護送船中)
激しかりし戦(いくさ)のことをおもひ居り沈没船にさせる入つ陽 森重 義雄
(バタビヤ)
かへる日はつひに無けむと思ふ日を咲きゆるるなり太陽(マタハリ)の花 同
(バタビヤ・チピナン四首)
バンヂャルマシンの兵舎の裏に埋め置きし吾が愛刀は如何なり居む 溝口 登
再びを祖国(くに)建つまではかばかりの悲しきことに泣かず耐ふべし 佐藤 武雄
民族のまことの力うたぐはず行くべき時代(とき)に牢に生き抜く 同
煉獄に耐へて故國の土踏まむ望みを捨てず今日も生きたり 安藤 周二
(チモール・クーパン)
再びは来ることなけむこの街の目にふるるものなべてなつかし 武 勉
(メナドを去る日)