歌集巣鴨・28
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編集者
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帰 国
待ちまちし帰還のよき日迎ふると虜囚は移るオンロスの島 森脇 時夫
(バタビヤ・チピナン)
護送車の幌より覗く並木路は火焔樹燃えて風に散り居り 鈴木 一郎
(バタビヤ二首)
連ねたる五十余台の護送車に手振る人ありバタビヤの街 南部一十四
故國への船待ちながらオンルスト島の火焔樹の花散り初めにけり 安藤 周二
(バタビヤ港外オンルスト島六首)
明け暮れを渚に立ちて船を待つオンロス島に燕飛び交ふ 田中 高夫
國に還る喜びの声充ちみちて火焔樹燃えたつ孤島の夕べ 白井 宏道
夕まけてダマル樹の樹脂(やに)のたるる下明日の帰還を語らふ吾等 田中 謙太郎
夾竹桃の咲けるを見つつこの島もわが悲しみの消ゆる時なし 谷口 武次
残しおく病戦友の一人もへば今日の船出の痛ましきかな 森脇 時夫
幾百の戦友(とも)ら眠れる南のこの島影を忘られめやも 酒井 充
オンドルス島いま発たむとす夕まけてチクラン鳴けば島かぎろひぬ 早川 暢夫
再びを来りて御骨拾はむと心に決めて島を去るなり 谷口 武次
朝凪を艪さばきかろく弁髪の女物賣り近寄りて来ぬ 鈴木 一郎
(シンガポール寄港)
おほいくさきびしかりけるこの海の高涛の上に宮古島見ゆ 安達 孝
大島も富士も見えつつ十年へし吾が故郷の山河(さんが)近づきぬ 酒井 光
生き死にのはげしき道をかへり来て焦土に立てる暗き冬の日 谷口 武次
母國はなべて美はしおし照るや陽にかぎろへる相州の山 同