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歌集巣鴨・50

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通常 歌集巣鴨・50

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2009/9/1 9:46
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 死 刑 囚 に 寄 す

 異 国(その一)

 開きたる獄の鉄扉の夕蔭を出で行く君のマスクは白し      長谷川 稔
                          (上海八首)

 父が友人張宗援、伊達順之助先輩を提藍橋監獄に送る
 刑場につづかむ道も大君の辺と往く君の眉目のすがしさ      加藤 三之輔

 その胸に日章旗いだき夏草を赤き血染に君は染めしか      大西 正重

 一年を其日のままに俗名の位牌におはすみ灯(ともし)の揺れ      伴 健雄

 魂祀る宵とはなりぬしかすがにその遠妻に告げむ術はや      永田 勝之輔

 同胞が守りてかへる御骨らを畑に佇ちて見おくりまつる      安野 秀岳

 ここにして時雨冷し埋もれる勇士の骨に浸み徹るらむ      酒井 正司

 還りゆくわれら集ひて野火の煙たゆたふ丘にみ骨を拾ふ      今野 逸郎

 唐人の歓呼の中に散りしかや銃声聞ゆ白雲山(はくうん)の麓      増山 喜平                                
                                  (廣東)

 鯉魚門(りぎよもん)に葬られたる御霊はや二歳(ふたとせ)の忌に黒潮おらぶ      小原 直治
                                        (香港五首)

 鯉魚門の潮(うしお)は疾(はや)し底碧(あを)し鉄を抱(いだ)きて葬(はふ)られし友等      吉田 朋信

 水葬する屍の重錘(おもし)の鉄棒が解剖室の前に置きあり      田原 巌

 名も知らぬ野の花なれど水に泛かべこころからなる霊祭りする      徳永 徳

 二十六人の同胞の首吊りにける英人看守の腕の入墨      吉田 朋信

 刑場に今向はむとする友の金歯の光今も目にあり      神保 善治

 逝き給ふ刻は迫るか独房の前の足音(あのと)のあわただしもよ      吉井 啓祐

 この辺(あた)り君か亡骸(むくろ)の土ならむ手に掻きよせて袋におさむ      若松 斉

 海ゆかばみづく屍と歌ひつつ絞首台にいま友ひかれゆく      渡辺 正
                           (マニラ二首)

 死刑囚が今する挙手の敬礼は永久の別れぞ應ふ術もなき      酒瀬川 眞澄

 「十四名銃殺せらる」と大文字のマニラニュースを声なく見詰む      野口 悦司
                               (巣鴨四首)

 「比島戦犯死刑執行」の記事いたまし罪なき戦友(とも)ら遂に逝きたり      野崎 敏雄

 比島の死刑囚  
 厳かにいのちきはまる時にして己が潔白を語りしといふ      北田 満能

 十四名比島にて執行さるとききて
 さなきだにかなしきものを白藤の散れる夕べの庭に佇ちゐし       鈴木 義輔

 刑死せし友の空部屋おとなへば小鉢の野菊色あせてあり      小市 廣栄
                             (グアム島)

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