歌集巣鴨・25
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編集者
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裁 判
明日の裁き思ひ悩みて寝つかれぬ夜床に友の寝息きこゆる 河村 秀夫
(バタヴィヤ)
法廷の往復(ゆきき)の道に石礫痰を浴びつつ黙(もだ)に歩みぬ 小野 糺
(広東)
幾たりが血を吐くおもひにすがりけむ手垢に光るこの被告台 梨岡 寿男
(上海)
神の御名によりて裁くと云ひつつ復讐の眼(まなこ)吾は見にけり 森重 義雄
(メダン)
たたかひのかちのすさびに血にくもる刃かざして裁くといふか 荒木 貞夫
(東京)
風邪のまま通ふ法廷の重々しき空気にひびき咳(しわぶ)きやまず 平尾 健一
(横浜)
八紘を一宇にせむと法廷をとよもすばかり讀みきかせたり 荒木 貞夫
(東京)
生き甲斐は此の一時にありといふ妻の面輪は輝きて見ゆ 射手園 達夫
(横浜三首)
「福ちゃんの漫画」証據に出でし時暫し和みぬ夏の暑き日を 鈴木 薫二
小春日の裁きの廷(には)のつれづれに繪をかき眠り歌つくるあり 山上 均
リンチの果結核の重患に喘(あへ)ぐわれを木椅子に横たへて裁きつぐ日々 吉田 朋信
(香港二首)
今日もまた侮蔑のまなこ身に浴びて裁きの庭に出で立つわれは 山崎 太喜男
あきらめは虚無にあらずとみづからをいたわりてみる求刑の夜 早川 暢夫
(チモール・クーパン)
やうやくに心静けくなりし今宵マキリン山の月にたたずむ 田中 徹
(マニラ)
銃殺と聞きたるときに背向(そがひ)より涌きあがり来し土民の歓声 鍵山 鉄樹
(蘭印)
四十一人次々に絞首刑を受けければ遂に泣き伏す女辯護士 吉原 剛
(横浜)
口惜しくば戦に勝てとうそぶきし検事の言葉またも憶ひぬ 横山 公男
(比島)
帰るさの護送車の影ながくして心に沁みる秋の日の色 門屋 博
(上海)
キリストも釈迦も架空のものなりとあざけりし彼は無罪となりぬ 早川 暢夫
(チモール・クーパン)
あかしたちて帰る身羨し吾が友の心の中や清しかるべし 小林 仁
(グワム)
師を思ふ教へ子たちの眞心にとつくに人も心うごきぬ 沼尻 茂
(横浜)
敢然と一人無罪主張せしパールと云ふ印度の判事 高橋 丹作
(東京)