歌集巣鴨・23
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編集者
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晦 冥
敗 戦
台湾統治五十年の歴史今滅びむとす総督府魔天の塔は燃えつつ 牧沢 義夫
(台湾)
紺碧の大わだつみに影曳きてわが機は東へ東へ翔くる 同
灯のかげに信國の太刀抜きもちてみだれ見つめしときもありにき 大城戸三冶
(内地二首)
自刃せる杉山夫人のこと言ひし或る夜の妻の涙おもほゆ 同
をみな子は自決ときめて白妙の布(きぬ)うち振れる夕づく丘に 渡辺 斂
(比島七首)
海岸の真砂(まさご)に僅か書きとめてマラリヤの友また自決せり 出口 太一
空せまきレオンの谿の水のべに三日堪へたり蜷をはみつつ 渡辺 斂
夕まけてオトンの街の古寺ゆ響く鐘の音谿にこもらふ 同
品ふりし天幕張って岩かげにスコールさけつ戦友(とも)と二人して 中村 安藏
終日の銃声やみて昏れなづむ山峯(ね)はるかに野犬の声す 渡辺 斂
最後(いやはて)の野宴に集ふ二千名軍と稱(なづ)くるも今宵一夜を 同
天地は今忽ちに裂くべしと我がむらぎものたかぶりやまず 酒井 光
(爪哇二首)
敗戦後自決せしインドネシヤ憲兵補ラデン・アブドルカリ君を憶ひて
心根のいぢらしければしかすがにねのみし泣かゆ遺書をくりつつ 富田 善雄
しぶく雨のなかを頻りにゆく車輛武装とかれし軍集結のために 森重 義雄
(スマトラ)
昨日までわが兵哨ちしペラ河の橋のたもとに英兵誰何す 谷口 武次
(馬来)
死してなほ足らざる罪は背負ひつつ生き難き世に生きんと誓ひき 餅田 実
(支那四首)
死すべきか生き抜くべきか思ふこと惑ふことなく子は生れけり 加藤 三之輔
四明山の奥所にこもり國民の寄托に副へといひし戦友はも 梨岡 寿男
細予千足國と遺されて戦ひ敗れし罪はのがれず 同