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歌集巣鴨・6

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編集者

通常 歌集巣鴨・6

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2009/7/17 22:01
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 
 或日の歩み(その一)

 今日もまた二つの眼(まなこ)あきにけり空蝉(うつせみ)の命いきてゐたるはや       桂 定治郎

 生死(いきしに)を天(あめ)の定めとさはやかに今もさはやかに思へる我ぞ        同

 鍵をあくる音にめざめてほのかなる窓のしらみに一日(ひとひ)をおもう      松井 正治

 あけやらぬ獄舎の門にならぶ灯はマヌスに友を送らむバスか      小出石 繁丸

 裁かれむ人らもひつつマヌス島を南緯七度の図上に見たり      浅利 英二

 「生れ故郷はいつ見てもいいなあ」と夢のことを友が朝起きて言う      橋本 孟

 毛のぬけて棒となりたる歯刷子を今朝も使いぬ囚屋のわれは      星川 森次郎

 三月釈放説も恃みがたくうそ寒き朝を甘藍移植す      本間 八郎

 根なしごと時にはよろし明るさの中に在るとき人争はず      伴  健雄

 ほころびを縫ひゆく手つきもいたにつき牢生活は三年を経ぬ      橋本 孟

 穿き古りし手縫の足袋は再びを繕ひ了へて手筥に仕舞う      諫山 春樹

 獄廊に裸身はさらし湯に行くと走らば更にみにくからむか      下田 千代士

 Get up ! とわめきて友を蹴りにける赤ら面(おもて)は胸に刻まむ        同

 今朝吾に敵意のまなこ差し向けし兵にこだはりて寒き日昏れつ      中庭 顕一

 たぎちくる底ひの忿堪へがてに窓辺に佇てば富士遠白し      穐田 弘志

 したたかにドア閉す音あひつぎて吾らが示す小さき反抗      大島 紀正

 捜検にとり乱されし房の中妻の手紙に黒き靴跡      田中 良平

 土足にて踏みにじられし吾が過去の怒り新たなり検査日ごとに      藤井 正市

 所持品のすべてを並べ検査待つ(まつ)小盗児(しょうとる)市場のこと思ひつつ      市橋 重雄

 ためらひも卑屈もなく捜検の日本人看守に眞向ひにけり      長田 邦彦

 胸を張りて「君ヶ代」に和す戦犯の堂々として卑屈なるなし      森本  新
 (運動会)

 神を求め生きむ希ひの素直にてためらはず手を挙ぐる幾人      福田 千代吉
 (教会)

 いつしかに席定まりてつつましく歌会に今日も列りて居り      諫山 春樹

 何となく力湧き来しこの頃は夜も講義の席につらなる      友森 清晴

 雲上の人と思(し)ひゐし荒木貞夫吾と話しつつ好々爺なり      大島 紀正

 焚火する友等に交り白鬚の南老人の童顔が見ゆ      橋本 壽男

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