歌集巣鴨・52
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
投稿数: 4298
巣 鴨(その一)
いつまでをかくは歩りかむ命ぞと無慙なるまでに貌は見てゐき 梨岡 寿男
手錠されてひとは歩める日蔭路にヒマラヤ杉の花こぼれゐつ 小林 逸路
降るごとき朝のひかりに一團のつながれしままの死刑囚歩める 内田 五郎
やがては殺されてゆく人達よあれあのやうに片手を振って 谷本 俊一
両の手に食ひ入る如き君が枷解かむすべなし吾が手届くに 下田 千代士
(於三六一病院)
手枷して面会してゐる極刑の友の手頸の細りしことよ 佐々木 勇
死刑囚の減刑嘆願
天つ神に願とどけと端坐して字劃正しく我が名したたむ 東木 誠治
弦を合はす音にまぎらし覓め得たる影に短き言はおくりぬ 田代 友禧
(慰問演奏)
比島死刑囚佐々木春夫君の便り
絶筆と或はならむか二度よみて丁寧に綴りおく俘虜通信紙 小林 逸路
このメモを使ひし君は既になしボアキンといふはいかなる土地ぞ 大谷 房吉
異国より還る友等に幸あれと畳に差しあり死刑囚の文 中村 安蔵
かなしみの極みにあれば死囚らが詠へる歌はかくもきびしき 栗原 吉生
鉛筆の芯なめつぎて灯の暗き夕を寫す君が死の歌 穐田 弘志
死の棟に移されゆきし友の品形見と分けつ底冷ゆる夜を 同
刑執行の噂しきりなり小夜更けて滲み入るごとく雨降りつづく 毎田 一郎
執行の噂流るる秋雨の夕べを独り房にこもれり 村井 正明
群鴉棟をはなれず啼きしきる處刑の噂傳はりし日を 最上 善一郎
逝かれたる八人の中に気づかはれし菅沢老の名をも聞きけり 片山 謙五
見て来たと云ふ人に會ひて棺桶の数執拗にたしかめむとす 大島 紀正
心あるもののごとくに散る公孫樹刑死の友と語りしもここ 藤井 正市
讃美歌と誦経の声のこもらへる朝の五棟は去りがてぬかも 額田 坦
死にゆける友の幾人かくらしける房としもへば安寝しなさぬ 中村 安蔵
刑死せし友も倚りけむ房壁の汚染(しみ)に射しゐる夕日の光 浜本 次郎
昨夜(よべ)逝きし囚友(とも)の妻子が泣きぬれてグリーンゲートを去りがてにをり 浅利 英二
いつまでをかくは歩りかむ命ぞと無慙なるまでに貌は見てゐき 梨岡 寿男
手錠されてひとは歩める日蔭路にヒマラヤ杉の花こぼれゐつ 小林 逸路
降るごとき朝のひかりに一團のつながれしままの死刑囚歩める 内田 五郎
やがては殺されてゆく人達よあれあのやうに片手を振って 谷本 俊一
両の手に食ひ入る如き君が枷解かむすべなし吾が手届くに 下田 千代士
(於三六一病院)
手枷して面会してゐる極刑の友の手頸の細りしことよ 佐々木 勇
死刑囚の減刑嘆願
天つ神に願とどけと端坐して字劃正しく我が名したたむ 東木 誠治
弦を合はす音にまぎらし覓め得たる影に短き言はおくりぬ 田代 友禧
(慰問演奏)
比島死刑囚佐々木春夫君の便り
絶筆と或はならむか二度よみて丁寧に綴りおく俘虜通信紙 小林 逸路
このメモを使ひし君は既になしボアキンといふはいかなる土地ぞ 大谷 房吉
異国より還る友等に幸あれと畳に差しあり死刑囚の文 中村 安蔵
かなしみの極みにあれば死囚らが詠へる歌はかくもきびしき 栗原 吉生
鉛筆の芯なめつぎて灯の暗き夕を寫す君が死の歌 穐田 弘志
死の棟に移されゆきし友の品形見と分けつ底冷ゆる夜を 同
刑執行の噂しきりなり小夜更けて滲み入るごとく雨降りつづく 毎田 一郎
執行の噂流るる秋雨の夕べを独り房にこもれり 村井 正明
群鴉棟をはなれず啼きしきる處刑の噂傳はりし日を 最上 善一郎
逝かれたる八人の中に気づかはれし菅沢老の名をも聞きけり 片山 謙五
見て来たと云ふ人に會ひて棺桶の数執拗にたしかめむとす 大島 紀正
心あるもののごとくに散る公孫樹刑死の友と語りしもここ 藤井 正市
讃美歌と誦経の声のこもらへる朝の五棟は去りがてぬかも 額田 坦
死にゆける友の幾人かくらしける房としもへば安寝しなさぬ 中村 安蔵
刑死せし友も倚りけむ房壁の汚染(しみ)に射しゐる夕日の光 浜本 次郎
昨夜(よべ)逝きし囚友(とも)の妻子が泣きぬれてグリーンゲートを去りがてにをり 浅利 英二