歌集巣鴨・53
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編集者
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巣 鴨(その二)
高塀の彼方の監に人一人今夜(こよひ)を死ぬとしづもれるはや 伴 健雄
(岡田資氏)
梧桐(あおぎり)の稚葉(わかば)は風に躍れるに七たりの友逝かねばならず 谷本 俊一
あの窓の明り消えなば我が友の去り逝きますと夜な夜なに見る 橋本 欣五郎
花祭る今日を七人死に就くと老師のみ声杜絶えがちなる 中村 安蔵
佐渡おけさうたひ終りて新潟の四人の友ら死につきしとふ 鈴木 義輔
「皆さんさようなら」と闇に叫びてゆきしとふあたりに佇ちて友偲びをり 大島 紀正
照る月も血に染めとばかりにも絞首台辺絶叫聞ゆ 橋本 欣五郎
縛られて鉄扉に消えし幻影がしばらくあり刑場をつつむ夜霧に 大槻 隆
メフイストの哄笑奥に聞くごとし灰色の壁に耳を当つれば 井上 彦次郎
(刑場の門)
瞑(めつむ)れば時空のはてにこの廊を辿りし足音(あのと)聞ゆる如し 下田 千代士
刑場の道に窪める足跡をふかめて朝の雨は降りつぐ 佐々木 勇
今日もまたたそがれてゆく刑場の空を仰ぎて喪(な)き友思ふ 瀬山 忠幸
鎖されたる十三号の門近く露もしとどに茶の花咲けり 中川 泰治
刑場の扉の前にこぼれ種の水菜は伸びて花つけにけり 野口 悦司
こともなき金曜日かと思ほへば刑場の傍に咲く菊の花 布施田 金次郎
寂かに雪は降りつつ空重きたそがれ時を黒し絞首場 伴 健雄
昨夜の間を変りなきごと刑場のそばの菜の花黄に咲きゐつつ 長谷川 義男
刑場のかたへに咲ける鶏頭の妖しきまでに紅ゐは濃き 内田 五郎
心々とものをこそ思へ刑場の鉄扉にしみいる冬の夕光 山田 太一
刑場の草むしりやめたたずめば逝きし友らの声がきこゆる 山上 均
おづおづと鉄扉くぐりて立ちならぶ絞首台を見つつ息吞みゐたり 大城戸 三治
焼香の焚きがら淡く匂ひゐて囚友(とも)逝きし刑場今朝ひそかなり 岩沼 次男
心堪へて登りしならむ絞首台の十三段を拭き清めをり 同