歌集巣鴨・26
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編集者
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海 外
蘭 印
生活の日々
オリオンの窓より低く落ちゆけば暁にして嘆くものなし 大神 善次郎
(バタビヤ・チピナン四首)
季節風(モンスーン)の空凪ぎはてて晝ふかし獄庭(には)にひとむら立てり玉蜀黍 同
獄庭(には)隅のしどろが中に見出でける日本種茄子の紫の花 橋本 寿男
椰子の実の稚きつぶらがこごもりて眞陽には青き光放てり 佐藤 武雄
汗あへて木陰にいこへば砂丘越しの潮風は吹く光る海より 武 勉
(メナド)
常夏の島の獄(ひとや)にマンゴウの黄いろく熟れて空は夕映 林 鉄夫
(バタビヤ・チピナン)
嬉々としてマンゴを盗む猿の群に寄りゆくときに見張猿啼く 鈴木 一郎
(セレベス・ラマシ)
鉄戸開(あ)けば水罐提げていち早く厠の長き列に連る 橋本 寿雄
(バタビヤ・チビナン)
獄卒がなぐる革鞭の肉(しし)の音晝の獄舎は声一つなし 渡辺 正司
(ボルネオ・ポンチャック)
泥酔せる兵の闖入に更けし夜を逃げ廻りたる房の百余名 関 一衛
(シンガポール・チャンギー二首)
乳垂るるパパヤの若実うち食らひ今日のひとときの胃の腑は足れり 大神 善次郎
棚の内にパン投げ呉れし印度兵ターバン白く闇に去りゆく 鈴木 一郎
(マカッサル・マンダイ)
ターバンを巻きたる兵に空腹の堪へがたき夜は水を貰へり 大神 善次郎
(バタビヤ・グロドック)
空腹は耐へがたくして黒人兵の残したる飯(いい)に心ひかるる 木下 武
(アンボン)
金義歯(いれば)抜きて換へたるシガレットの封切らぬまましばしたのしむ 渡辺 正司
(ボルネオ・ポンチャック)
守宮(やもり)鳴く壁に刻みし亡き友の悲憤の絶句ひそかに寫しぬ 鈴木 一郎
(マカッサル)
初孫の寫真挟みしバイブルを枕辺に置く中島中将 神住 善治
(バタビヤ・チピナン二首)
牢屋なる石床に伏せば冷え冷えと雨季の湿りの背に迫り来も 坪川 豊久
椰子の葉の獄舎(ひとや)の屋根の破れより雨漏る床に病み臥す吾は 鈴木 一郎
(マカッサル・テロ)
体力の衰へかなしチーク材動かし終へて吾が息あへぐ 鳥井 衛
(バタビヤ・チピナン二首)
投げ棄ててしまひたき思ひに作業止めの間際に来たる鉄材おろす 溝口 登
弱き人たふるるときが時間にてこの頃作業はやめに終る 安達 孝
(シンガポール・チャンギー)