画像サイズ: 537×480 (32kB) | 暮らしのなかに歴史が
こうなると、先ず宿探しからはじめなければならない。ここ山間の村では、すでに陽も影ってきており、六月だというのに風も冷たくなっている。お寺の鐘のきこえるほうが村の中心地の筈なのでそっちの方向へ向けて歩きだした。しかし、村道はがらんとしていて観光客の影もみえないし、民宿らしい家もない。なんとなく不安になってきた。やっぱりスキーシーズンでも避暑シーズンでもない今は民宿はやっていないのであろうか。 しょんぼり歩いてお寺のすぐ近くまでくると小さな農家の軒に「ZIMMER(部屋あります)」と書かれた板切れがかかっていた。家の前で子供が5人ほど遊んでいる。なかからおばあさんがでてくる。やれやれである。
さっきの会話の本で憶えたとおり「ウナ カーメラ ウナ ノッテ」といってみる。 するとおばあさん「ヤー ヤー」という。「ええと、クワント コスタ?(宿賃は?)」「フィユンフ タウゼント(5000リラ)」と答える。どうやらここではドイツ語一辺倒のようだ。これでは、国境の駅であわててイタリア語の予習をする必要はなかったんだ。
いずれにせよ、心配していた宿賃のほうも朝食付きで1200円ということであればなんとかなるのでこの家に泊めてもらうことにした。お客を泊められるのは二階の一部屋で、骨董品的なダブルのベッドの他、タンスなどの家具があり、バルコニーにはいかにもチロルらしくゼラニュームの鉢がならんでいる。部屋も清潔でベッドには可愛い花柄のベッドカバーがかかっていた。部屋のそとにはトイレとシャワーがある。恐らくお嫁にいった娘さんの部屋かなにかだったのであろう。家庭的でくつろげる家である。 ここに決めた。 |