句集巣鴨・26
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
投稿数: 4298
昭和二十五年・その五
なりわひの春寒うしてたつ路傍 高橋 丹
木場の道舞ひたちてゆく春埃
春光を集めし注射器を怖る
注射熱出でて春夜の時違ふ
飢えしものありて金魚に佇たしめる
請願のおよそとどかず梅雨に入る
夕立のまづ一滴が地に吸はる
片蔭によりどころ得て老い讀書
灯蛾もなきこの明るさやるせなし
秋めくや憩ひ別れたる石の冷
頑な菊の手入れに連れ添はず
その白裳眩しく神父暑を来る 仲井 芝男
風光る椰子の街見え獄扉閉づ
蚊の音の拂ひ切れずに疲れ眠る
芝刈器からからと鳴り夏の蝶
春眠に似て鍵音の近づき来
菩提樹の光よ希ゐありやなし
入院(二句)
幾年の衰へ月に射すくめらる
十字星の座移り遅々と熱の瞳に
松崎氏奇禍(二句)
絶望の汗滂沱たり死屍を前
椰子籟の啾々とし夕昏れぬ
金魚草ほろりと落ちし遺書の上 伊勢 一風
かへるなき命想ふや夜の蝉
刈る髪に白きが増えて梅雨に入る
蜩の聲よし友は笑みて逝きぬ
菊の香にしんしんとして思卿沸く
菊活けてささやかな手記遺すべく
自らの歯ぎしりに覚め夜寒かな
減刑(三句)
いのち生きて今冬晴れの庭に立つ
霜凪や鎖なき手を振りて歩す
再生の歩々踏みしめて霜柱