句集巣鴨・32
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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昭和二十五年・その十一
久方の母の便りや草青む 泰 一孔
巣鴨獄中五年をかへりみて(一句)
木の芽風かぼそき腕の皺を見る
とらはれの身を吹く風や秋の風
白南風の道行く人の脛白し 石山 豪堂
三伏の太陽に獄白く構ふ
食饍にふるさと偲ぶ柿一つ
東風吹いて夢なほ多きわが余生 東木 尾山
焼けし街残りし街も春霞
石焼けて松葉牡丹の咲きにけり
朝の霧監視塔より晴れ初めぬ 黒氏 眉丈
いたつきの寝顔に秋陽きびしくて
いたつきのわれ秋の蝿追ひつかれ
飛魚や印度洋上明けそめぬ 森本 庵花
血痰の今朝も少しく花木槿
君逝きし頃の想ひや萩に佇つ
独房裡獣のごとゆきき日短か 白井 宕樹
囚人と呼ばれて五年落葉掃く
掃き終へて落ちる木の実美しも
春雨や切りつめて書くよきたより 毛利 卯生
瘦身にあまる獄衣や秋の風
作業場に暖冬異変のシャツを脱ぐ
揚雲雀天文台のその上に 平野 平
かじかみて打つ釘頭ひん曲がり
獄布圑出して叩いて年用意
炎晝にとぎすまされし獄鍾(かね)打たる 高野 朔二郎
黒人の蹠は白く梅雨踏めり
悔多き過去よ熱砂を歩む蟻