句集巣鴨・31
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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昭和二十五年・その十
春の風一年生は小さくて 山口 杏太
雨の夜をいづくより蟲鳴くものぞ
生大根噛めばかなしき音のしぬ
冬木立今日も眺めて獄に暮る
「初雪」と友指す方や男体山
春燈や子が画きたる妻の顔 溝口 烏帽子
水打ってゐて死刑囚と視線合ふ
讃美歌の聞こゆる水を打ちにけり
試し居る納涼會の拡聲器
砂利塚のまだぬれてをり石たたき
蜩や牢房二人居て静か 生田 古瓢
文化の日獄舎の図書を修理する
鉄扉押せば夕べの落葉かな
靴音の鉄扉に撥ねる夜寒かな
初凪や艪さばきかろき弁髪女 鈴木 南潮
羅にナイロンの雨看女秘書
雪の富士傾くまでに舷に集る
還り来て疊嬉しむ寒燈下
獄窓に見ゆる限りの春惜しむ 太田 都塵
梅雨の日々四面の壁を重くする
一人出て庭に裸をなつかしむ
夕焼の庭に叫びを殺し佇つ
春めくや片頬の風やはらかく 田口 青葭
視野限る屋根に花火の遠くして
緑蔭に虚栄と知ってゐる別れ
霙降れ降れ戦犯の名は嫌悪
香港
獄吏去り眼界廣き緑かな 小畑 黙庵
手錠の手別離惜しみつ梅雨の中
スヰトピー摘む吾が指の荒さかな
暑き陽や今日も黙って草毮り