句集巣鴨・45
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編集者
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選者吟・その二
河野 一淡
昭和二十四年
春寒を言ひつ閨の灯は妻消しぬ
十和田湖回顧(一句)
火口湖の碧さ一蝶吹かれをり
空虚われまなかひの獄塀蝶越せば
矢は的に立ちて落花の一しきり
花に佇つ尼僧に今日の昏れ残る
妻の顔子の顔幟晴れつくす
この窓に春や怨みと囚幾人
燃ゆるかに音なき雨のつつじかな
柿若葉陽はレグホンに溢れつつ
独房に患みて一燈五月雨るる
蛍とぶ岸に一日の鍬洗ふ
土埃麦に残してバス行けり
麦笛の少年に空涯なかり
朝の気に金魚の卓の微塵なし
慶びの席とし金魚灯にゆらぐ
金魚池に竹の夕ぐれ動き初む
青柳の落ちし朝なれ土匂ふ
風呂浴みし人夕顔の風を言ふ
人喚く蝿の魚市通りけり
風鈴に池畔の風の余すなし
浪に失せし流燈になほ佇てりけり
風秋を動き軍鶏の羽疎か
傘さして萩のみだれを束ねける
神韻の山湖湛へて銀やんま
抜き足の子に蜻蛉の眼動きつつ
柿たわわ七郷の空晴れ渡る
柿干して山ふところに家富める
死火山は案山子の?の向く方に
独唱のステージは湧き菊揺るる
花山師(一句)
秋ゆくや弥陀御ン前に師は痩せて
ペチカ燃え團欒犬も交へたり
裁判途上(一句)
冬の月浚渫船は動かずて
雪眼鏡ことにはルージュ艶きて
寒雀日暮思卿の湧く癖は
大川の水面に雪の降る灯影
昭和二十五年
乞食何か呟いてゐて梅だけ白い
春立つ灯髪短か目に刈って見る
薄倖の肩の細りよ梅雨に委し
灯を消せば新涼房をはすかひに
友の嘘に首肯いてゐて晝の月
時雨るるやトラック炭骸(から)を積んで去る
面會の妻よ氷雨にかくも濡れてか
明日のあてあるなし冬の蝿とゐる
熱の瞳に耐ゆるかぎりの雪降れり
轉がせる一顆に冬日来て親し
醫師立って注射器すかし冬木窓
昭和二十六年
木の葉髪老の独語はあわれまむ
春あした女警の歓語門出づる
狂囚の房ひっそりと桐咲ける
塀の遠ヶネオン涼しき夕を呼ぶ
何もかも秋遠きもの遠くして