句集巣鴨・34
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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昭和二十五年・その十三
秋燈やあの家の主(あるじ)帰還(かへ)らざる 古川 宗花
栄辱の世に老い獄の菊つくる
法師蝉弱き打棒の選手立つ 寺田 夢袋
獄房の電燈高き煤拂ふ
死刑囚の讀経金曜日の霧に 寺門 隔陽
獄の庭人なき椅子に秋の風
老囚去りし塀に日向もなくなりし 沼野 五行
朝の窓に雀来鳴かず牢寒し
梅雨の夜の影おそろしく振り返る 中村 思川
蝉時雨ふりかぶさってバスのろく
鉄窓の狭きは言はじ初御空 結城 秀湖
思はざる人の賀状や短歌一首 芳尾 芳柳子
プラタナス未だ芽ぶかずや人待つ女 吉永 跣子
鍵の音遠のき雨に明けし春 大谷 三志
春風に髪を委(ゆだ)ねて庭めぐる 西山 清風
水耕(一句)
春光に透る温室處女群れて 保田 志空子
鋸屑の匂ひ春めく日の作業 大竹 幽念
手をあげる子に手をあげて麦の道 平岡 徳燿
緑蔭の土に「母」の字書いてみる 山上 竹泉
夜半の雨獄洞然と冷をます 樋口 吐美
ジャワ離島(一句)
しんがりは見えず街道花火焔 木原 清人
帰還船上((一句)
琉球は左舷に灯り風寒し 高山 仙峯
十一月美男大佛野に御座す 横田 春歩
友送る即ち雪の道拡く 岩崎 苔郎
獄寒夜置けば消えゆく煙草の火 果斐 一緑
あるだけの囚衣まとひて寒に入る 小松 清泉
目礼の光る涙にマスク取る 神住 竜子