句集巣鴨・55
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編集者
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遺作・その九
故谷萩 那華雄
落葉焚くその火の中へ落葉かな
一茶忌や句を仕る榾明かり
炬燵の火行灰に移し寝んねとよ
温突はぬくし?????かりし
炉話の銘々傳に終ひかな
交番へ蕎麦の出前や大晦日
煤拂ひ済みて射し込む夕日かな
のけぞって羽子つく妹か髪容(かたち)
馬子酔っばらってのらりくらりの初荷かな
初鶏や仰け見れば十字星
屠蘇注ぐや恩賜の御盃此処にあり
故久川 広重
絶句
絶叫の消ゆる彼方や雲の峯
椰子葉かげ一つふえたる新佛
故西村 琢磨
年老いて早出の身なり朝寒し
雪崩れ哉番犬吃と身構へぬ
故佐々 誠
スコールに心きよめて死出の旅
故河野 毅
春暁や巨杉かそけくつゆみたり
(註 巨杉は山下奉文大将の雅号にしてその刑死を追悼した句ときく)
故武藤 章
菊の香やみ佛われを見そなはす
佛前の心安さよ供花の菊
残菊のみあかしにこそ輝ける
冬もみぢゆり落とされて掃かれけり
嘆異鈔をいただいてよむ (一句)
冬の陽はおりおりかげり心かな
冬の窓洞然として澄みてをり
我が娘に (二句)
ショールを買ふてやりたいと思ひけり
窓越しに遺髪を渡す寒さかな
松井石根氏と散歩し
死刑囚冬のこぼれ陽顔に拾ふ
老囚に冬の手錠の重味かな
くろがねの手錠に指のかじかめる
木枯の地に荒ぶ日も天澄める
十二月八日執行きまると思ひ
臘八の暁またで別れかな
臘八の星を頼りに門出かな
われも今日は独りにあらず冬の蝿
独房に見付けし冬の蝿一つ
冬の蝿見えなくなりし淋しさよ
二つ三つ黄葉輝やきて冬晴るる
木枯にゐ向ふハギのやせにけり
俗諦を離れし我に冬晴るる
霜の夜を思ひ切ったる門出かな
下駄はいて登る霜夜の絞首台
散る紅葉吹かるるままの行方かな
故東條 英機
われながらすごし霜夜の影ぼうし
父の命日や呼ぶ聲近し暮るる秋
寒月や幾夜てらして今ここに
故青井 眞光
逝く秋を共に逝く身を磨くべく
此の秋を越さぬ刑の身いたはりつ
来る日まで肥えばやと心おほらかに
死刑宣(う)くこの日故郷(ふるさと)秋祭り
故河村 伍郎
鉄窓の間間に夏の星
竽頭に蟻ひとつあり夏の雲
故福田 永助
戦やみ兵なき習志野揚雲雀