句集巣鴨・43
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編集者
居住地: メロウ倶楽部
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昭和26年・その九
護送車の第一陣や風涼し 山崎 一歩
香港の夜景を窓に部屋暑し
甲板の暑さに耐へつ下船待つ
朝靄に現れたりほのと故國の山 福田 南昭
無恙なる海路に安堵の汗を拭く
十年振り秋風の沁み濱埠頭
年頭の話題の講和牢五年 掛橋 幽念
うららかに影をともない友出所
絢爛の崩れんとしてなほ牡丹 平光 同塵
慰問キャンデーを戴き(一句)
情(こころ)なれや寒暁咽にしむ甘味
刑場の茶籬叩く霰かな 生田 古瓢
黝める囚人の貌や棕櫚の花
新らしき下駄はき東風の人となる 田中 雀村
蝸牛角冷かに朝を吸ふ
名を知らぬ花多きかな夕涼み 小畑 黙庵
睡蓮や話し合う人なきままに
晝風呂も沸きて朝より喜雨休み 犬山 天山
囚房に今日未だ見ゆる帰燕かな
骨高きあばらくらべてゐる裸囚 古川 宗花
さびしさに堪え聖書讀む秋灯火
ものの音の遠き庭なり初雀 太田 都塵
乞ふ君が明るさ庭のチユーリップ
拭き給ふ汗の御顔の母老いぬ 渡辺 木舟
淋しさに慣れて寒き夜ギター弾く
病む友をみとり勵まし初笑ひ 斉藤 一疊
車塵巻く中に木蓮白かりき
初富士に獄衣正して眞向へり 中村 桐青
残雪につれなくも塀高かりき 山口 杏太
いのち惜しものの芽なべて伸びるとき 山上 竹泉
入學のまだ見ぬ吾子の初便り 小柳 八條
春寒し主なき椅子の小座蒲團 保田 志空子
狂囚のふと立止る紅椿 福地 鐘風
刑場の鉄扉黒ずみ苔の花 白井 宏樹
口論の果の淋しさ金魚見る 阿部川 遊子
向日葵やうしろに遠く松木立 井部 春陽
胸のすくニュースの欲しい暑さかな 木原 清人
照りかへす四號門の身検(みあらた)め 宮武 若水
両國の花火僅かに獄窓に見え 鈴木 芳月
カナリヤに耳つつかれて涼みかな 吉岡 一仙
羅に同胞はみな色白く 仲井 芝男
手術衣を乾せる垣根の紅鶏頭 山本 如柳
月明かり思ひは千々に鉄格子 神代 勝正