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捕虜と通訳 (小林 一雄) (6)

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄) (6)

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/11/10 8:36
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 捕虜収容所の門をくぐって・その2

 ある朝、食堂で食事する彼らを見たが、当然ながらスプーンとフォーク、ナイフだけで、箸《はし》は使わない。三百六十人の大世帯がガチャガチャ、フォークやスプーンの音を立てながら食事する風景は、日本的食事様式に慣れきった私には異様だった。
 「これが異文化だ」同時に「箸を使うわれわれの方が指先は器用なんだ。繊細な心情、自然を愛し、花鳥風月を賞(め)づる心もここに原因の一つがあるのでは?」 こんな心に駆られもしたが、どうしても〝戦争″に結びつけた考えは、こうした思いからは出なかった。
 捕虜の起居する生活棟などは一定の時間に日本の武装衛兵が見回る。その時は私も同行したが、ある夜、私一人が彼らの夜の生活を見てみようと無手勝流にバラックへ行った。入り口に立っている当番のアメリカ兵が不動の姿勢で挙手の礼を私にする。あわてた私も挙手で返礼したが、軍人でもない私は一瞬どきまぎした。アメリカ兵から敬礼される自分自身、てれくさい反面、けったいな感情も湧《わ》いた。でも少くともこの所内では捕虜たちはわれわれに絶対、服従している証(あかし)を敬礼で示したんだ、と安心した。こんなことがきっかけとなって、私の彼らに対する行動も一日ごとに大胆になってきた。
 一人で彼らのバラックに出かけ、一対一で話すこともしばしばだった。しかし、ちょっとした会話にも、私の話すことばに、彼らは首をかしげ、的確なことばが返ってこないことが多い。「なぜだ?」自問自答してもなかなか理由がわからない。自分としては高商時代のスミス教授直伝の英会話を思い出し、懸命に正しい英文法で話しているつもりなのに…。

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