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捕虜と通訳 (小林 一雄) (13)

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄) (13)

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/11/20 8:47
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 くそ度胸で通訳奮闘す・その5

 慣れてきて、捕虜みんなのロから漏 れてくることばーそれは「捕虜はいつ殺されるかわからないので、毎日が恐しい」ということだった。キャンベル軍医大尉も「捕虜は執行期のわからない死刑囚のようなものだ」といったことがあるが、このことばは、全捕虜に共通することばだったように思う。これを知った私は、捕虜への対応に細心の気配りが必要であることを痛感した。 
 所内勤務に慣れ親しんでくるにつれ、こんな捕虜の心情を知ったことは、かけがえのない収穫だったと、いまつくづく思う。弱者の立場に立った人間は、強者の意のままに動かざるをえない。人間という集団の宿命がこの収容所に凝縮されていると思った。公にできない小さな苦情を聞くことも、弱者への配慮の一つという、別の視点の通訳業の意識も湧《わ》いてきた。
 きれいな星のきらめく夜空を仰ぎながら、鉄条網に囲まれた粗末なバラック棟からもれる薄明りを横目に歩いていると、ここだけが〝安住の地″である寝静まった捕虜たちの「きょう一日」に命を賭《か》ける姿が、妙に哀れに感じられた。もちろん、当時、全般的には「いや、敵兵なんだ。そんな甘さを見せてはならない」という雰囲気だったが。
 とはいえ、星空の夜、バラック棟のこもれ火、暗い収容所の一角に唯一灯、まるで輝くような電灯の明りの下でコツコツと靴や古びた軍服を修理する笑顔の二人の捕虜・・・遠くからこんな風景を眺めていると、戦火の真っ最中、多数の敵兵を武装した日本軍が管理する場が、不思議と〝平和な夜景″のように見えてきた。だから余計に〝敵〃〝味方〃の感情を越えて〝人間〃として同じステージで接する気分が、私の心にグッと湧いてくる。"きびしい現実〟を逆に情けなく感じさせた。

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