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捕虜と通訳 (小林 一雄) (35)

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄) (35)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2008/1/4 8:34
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 アメリカの銃後は豊かだった~捕虜への便りで明らかに・その2

 ある軍医はこんな手紙だったと思う。医の道に命を捧げる若い彼の姿がいまも脳裏に去来する。真面目で、それでいて明るく、誰《だれ》からも好かれ、やさしい医者だった。
 一方、アメリカ本土から彼ら捕虜に送られてくる手紙や写真を見て驚かされたものだ。なつかしいあなた。お元気ですか。私の主婦ぶりも板についてきました。近くに住むおじいちゃん、おばあちゃんがいつも心配して、いろいろなものを持ってきてくれます。休日には家族みんなが庭の芝生でチェヤーに腰をおろし、団らんのひとときを過ごします。その時には必ずあなたのことをまづ話題にします。あなたの豪快な笑い声が広い庭にひびいてくるようです。先日は乗用車を一台買いました。あなたが帰国したら、あなたの車として使えるように準備しています。楽しみに帰国の日を、みんなとともに待っています。きょうもお元気で頑張って下さい。健康にはくれぐれも留意して。私のために元気でいて下さい。心をこめてキッスを同封します」
 若い妻がある将校の夫に宛《あ》てた手紙のあらましだったと思うが、添付されていた写真を見て驚いた。広い庭に家族が思い思いにチェヤーに座って団らん中の写真。とてつもなく明るい表情。テーブル上の豊かな食べ物、横に大きなマイカーがでんとストップしているではないか。

 いま日本では国民みんなが粗衣粗食に耐え、焼野原となった大都市ではあんな広い庭つきのハウスなど、どこをみても見当たらない…これは国力の差なんだろうか?ふとこんな思いにかられたものだ。それにしてもこれがアメリカの一般家庭の風景だとしたら、ハッキリ日本は差をつけられている。いままで洋画でしか見たことのない風景を一家庭の状況として見せつけられショックだった。日本よしっかりしろ。われわれ一人一人が最大の努力をしなければ…ますます私の祖国を思う情に火がついた。当時、こんな考えが出るのは当然だったハズだ。
 ある捕虜が、送られてきた手紙を私に見せながらいったことを思い出す。「アメリカ本土では、みんな余裕のある暮らしをしていることを知って安心した。帰国しても苦しまないで、戦場に出る前の祖国にいた時と同じようなよい環境で暮らせると思うと嬉《うれ》しい。一日も早く帰国したい。帰国してもコバヤシさんとはいつまでも仲よく友人としてつき合いましょう」余猶のあるアメリカの銃後を彼らは手紙や写真で確認し、あらためて帰国できる日のきっとくることを待ちつづけていたに違いない。文字どおり〝嬉しい便り″〝勇気のわく手紙″だったのだろう。

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