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捕虜と通訳 (小林 一雄) (16)

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄) (16)

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/12/2 10:02
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 私を支えた〝収容所語学校″その3

 「コバヤシさん、あなたのことばには真実味がある。マナーも紳士的で、つねにわれわれの立場で応待してくれる。他の通訳に比べことばはまだ、うまくないが、人間の味があり、大好きだ」こういうフォーブス大尉(ALFRED・W・FOBES)からもよく英会話を習った。
 「どこの国のことばも、主語と述語、形容詞の並べ方は違っていても、人間の造語だから、心を知れば.すぐ覚えられると信じている」というのが彼の主張であり、持論だった。私もその言い分に賛成、家のこと、習慣のこと、学園生活のことなど、よく話し、お互いに双方の国語を教え合い、習い合ったものだ。
 ガルブレイス大尉は、つねに小さなノートを持ち歩き、私が教えた日本語を正しくノートに記入、発音まで書き込んでいた。また私に教える英語も、そのつどノートに書き、後日、同じことばが出てきたときなど「一回教えたのに、まだ十分理解していない。もっと努力しなさい」とたしなめてくれるほどだった。これでは英語を習う私も、うかうかしておれない。彼の厳しい教え方に敬服した。

 全般に捕虜のうち、将校はさすがに発音がきれいで、聞きとり易く、私のいう日本語の英訳の理解の仕方も早かった。一般兵士のなかには、なかなか理解できないものもおり、彼らの話す英語も、私にはすぐ理解できないことがあった。それでも〝耳学問″で、日とともに慣れ、しだいに理解もできるようになった。会話と暮らしの関係を身をもって知った、貴重な所内生活の世界だけでも随分あることを知って驚いたが、彼らと生活をしたことのない日本人の話す英語が、いかに彼らに通用しないか、ということも知らされ、驚いた。
 もう一つ勉強できたのは、聞きかじりのまま、例えばGIスラング (軍隊用語) を自己流に解釈してしゃべることの恐さということだった。英語は、意外に語呂のよい発音が〝強調″のために使われるケースが多く、これを勝手に流用して話すと、ある場合には相手を傷つけ、ある時には、英語を非常に理解していると受け取られ、まくし立てられることがある。例え〝耳学問″でも、こと会話に関しては、そのことばの意味をよく理解してから、使うことの必要さを痛感させられた。
 私にとって〝収容所学校″の経験は、学校ですばらしい英国人の英語教授に習った英語では決して身につけることのできなかったナマの英会話の修得のむづかしさを知ったこと。同時に、まがりなりにも日常英会話をこうした接触によって身につけることができた、喜びを知らせてくれたことだった。いま、あの収容所で話し合い、教え合った多くの捕虜たち、戦後のよき友となった人びとの顔、笑顔、憂え顔が目の前に髣髴 (ほうふつ) とする。なつかしい。

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