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捕虜と通訳 (小林 一雄) (34)

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通常 捕虜と通訳 (小林 一雄) (34)

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2007/12/28 7:51
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298
 第九章

 アメリカの銃後は豊かだった~捕虜への便りで明らかに・その1
 
 捕虜には定期的に故郷から手紙が送られてくる。捕虜も定期的に手紙を送ることが許されている。彼らにとって〝文通〟こそ唯一最大の慰めであり、明日に生命を見出す力となったことは否めない。
 しかし、戦時下、敵と味方である。郵送物の検閲は当然、行われる。通訳としての職務上、その検閲にはいつも立ち会わされた。その翻訳も自分で行い、軍部へ送った。手紙の内容はもちろん・私信であり公表はされなかったが、いま思い出すと、お互いの文通の一文字、一文字に、当時のそれぞれの生きざま、苦しみ、喜びが躍っていた。
 「元気ですか。こどもも一日ごとに大きくなったことでしょうね。貴女も私の不在中、いろいろな家事、育児で大変でしょうが、やがて会える日がきっとくることを念じています。当方はいたって元気です。毎日、定まったスケジュールで行動しているので体調がよいのでしょう。
 このレターを書きながら貴女の顔、子供の顔が目の前に浮かんできます。ああ、早く祖国へ帰りたい。もう少し辛棒すればその日がきっとくることを神に祈ります。それまで待っていて下さい。美しい妻と可愛い息子へ」思い出すままに捕虜の一人が書いた手紙をしたためてみた。
 「パパ、ママ、どうしていますか。わが家で暮らした日々がなつかしく思い出され、望郷の念にかられる毎日です。といっても当方はどうにか楽しく、元気にやっています。隣りのボス犬はまだ健在ですか。彼と遊び、運動させたことが急に思い出され、ホッとすることがあります。パパやママの夢も見ることがあります。それもこれも遠くに離れているからでしょうね。
 しかし、必ず帰ります。元気で待っていて下さい」若い兵士が両親に宛《あ》てた手紙はざっとこんな内容だったと思う。
 「いま異郷の地にいて祖国のありがたさをつくづく感じます。誰《だれ》も同じでしょう。多くの兵士の命をあづかる医者の立場から、つねに神経を使う毎日ですが、これが小生の本職であり、天分だと信じています。暇な時には医学書をひもとき、技術は落ちないか、医学知識は間違っていないか、反省と鍛練を行っています。人間、自分を見つめて真面目に努力すれば必ず、一般が認め、それが自己の安らぎにつながるものと信じています。医師としての道を歩み始めて終始、この信条は忘れないつもりです。貴女も医師として国内で頑張っていると思うと勇気が出ます。やがて帰国できる日がきっときます。その時には約束通り、手をとりあってすばらしい夫婦医師として社会に奉仕しましょう。一日も早くその日が来ることを祈りつつ。さよなら」

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