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疎開児童から21世紀への伝言 4

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通常 疎開児童から21世紀への伝言 4

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2010/5/6 6:14
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 レクイエム 「ある少女の面影」

   青木平衡(一本松校)

  昭和二十年五月二十九日 午前九時
  響き渡る空襲警報
  わずか一時間の無差別爆撃で
  横浜の街は燃え尽きた

  降りしきる焼夷弾の雨
  わたしは年老いた祖母の手を引いて走った
  紅蓮の炎 真っ黒な煙
  右も左も 逃げ場はない
  丘に行け! そんな声が聞こえた
  見上げる丘に向かって走る人々
  祖母には無理だ
  祖母をかかえて 近くの横穴壕に飛び込んだ
  それが生死の分かれ目だった

  暗闇の中
  時は止まった
  永劫の時が過ぎて壕を出る
  そこは一面の焼け野原
  ただただ 灰色
  モノクロの世界

  動員先から馳せ戻った姉が
  灰色の中から現れた
  無我夢中で帰ってきたのか
  まわりの様子にも気づかない
  祖母と ひしと抱きあった
  安堵と喜びのシーンの横に
  真っ黒な焼死体が折重なっている

  傍らに跪いている一人の娘
  髪は焼け 火傷に覆われた顔
  隣の家のお姉さんだ

  声をかけても返事はない
  その視線の先の黒焦げの死体
  焼けた運動靴に少女の名前が
  くっきりと残っていた
  握り締めた彼女の指先が震えていた

  少女はわたしより一つ歳上
  笑顔の奇麗な人だった
  幼いわたしの最初の冒険
  お泊りをしたのが隣の家だった
  夜遅くまでしゃべりあっていて
  叱られたことを思い出す
  わたしも焼け焦げた死体を
  ただ見つめていた

  その三ケ月後に戦は終わり
  六十有余の年月が流れた

  今は 少女のことを知る人はいない
  ただ私の心の中だけで生きている
  何のけがれもないあの笑顔
  そして無残に焼けた運動靴が
  いつまでもいつまでも残っている

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