疎開児童から21世紀への伝言 24
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編集者
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心のささえ 1
井関芙美代(寿校)
昭和十九年八月二十二日
第一信。無事につきましたか。気特や身体が変になりはしませんでしたか。お友達も皆元気で着きましたか。久し振りの汽車の旅でつかれたでしょう。大船のかんのんさんはどうでした。(中略)毎日葉書を送ります。ためておきなさい。
八月二十二日、寿国民学校六年生の兄・知明と四年生の私は、箱根の湯本に疎開しました。これから始まる家族と離れた淋しい日々を思ってメソメソしていた私のもとに、早速父からの葉書が届きました。そこには 「毎日葉書を送ります」と書いてあります。
えっ! 毎日……なんと嬉しいことか。
昭和十九年九月十日
夕方家へ帰りますと知明から手紙が来て居るとの宙明の注進で嬉しくなって一日の疲れも何処かへ飛んで消えてしまいました。食後ゆっくり読んで居る中に元気な顔が眼の前にチラチラして「まぶたの母」ではなくて「まぶたの倅」でした。よその子供は父母につまらぬ手紙を書いて送っているとの話を聞きますが、知明も芙美代も決して親を心配させるような事はないと安心して居ます。力強く生きなければなりません。この試練に打ち勝たねば立派な日本人になれません。いつかは会えるその日を楽しみにして居ります。ごほうびに本を送ります。国民学校聖戦読本四冊です。「星の話」 は見当たりませんから「海と空」と言ふのを買いました。二人で仲良く大切に読みなさい。子供の読む本が見つかったら送ってあげます。父のはがきが十四本たまったそうですが、番号をそろえて足りない番号は先生に伺って順にして置きなさい。
昭和十九年九月十日 母からの便り
芙美代ちゃん、朝夕大分涼しくなりました。よく着る物に気を付けて風を引かぬように注意して下さい。知ちゃんお月見会の時にした劇をくわしく知らせてきました。ずい分面白かったでしょう。
本やさんで色々本をさがして見ましたが今ではもうよい本など売っていませんから家にある「ジャンヌダーク物語」を送ります。エプロンを一つ作りましたから冬物を着るようになったらおかけなさい。
白いきれはつぎきれですが。これからは何何にするのだから何を送れと云って下さい。荷物は明日送ります。
同じ日で父と母からの手紙が届きました。時々しか来なかった母の便りは待ち遠しいものでした。九月二十日は待ちに待った面会日、母と妹の紀美代が来てくれました。父は朝七時四十五分の列車をホームで見送ってから出社したと書いてきました。この日のはがきは二枚続きでした。
昭和十九年九月二十日 (二枚目)
帰って来た母は疲れきって夕食を囲みながらボツボツ話し出しました。午食のことも其の他の事も興味なさそうで安心と不安が半分位です。父は一度は行ってみたいと思っています。皆様が持って行かれた慰問品は気に入りましたか。皆様が引き上げてからの夜の時
間は先生方と共にどんな話が出ましたか。
父母兄姉に逢えた児と逢えなかった児とではどんな会話が交わされましたか。逢えない児と言っても近い内に順番に逢えるようになるのですから気を落とさないようにはげまして上げなさい。(中略)紀美代は列車の中で寝たままで、今もスヤスヤと寝ています。知兄さんや芙美代お姉さんのお友達に会えてどんなにハシャイだ事でしょう。二人とも一月振りで紀美代を見てどう思いましたか。母から知明の元気でいる事を聞いてうれしく思いましたが、芙美代よ、お前は泣きべそだからもっと気を大きく持って強くなりなさい。自分が正しければ神様はチャンと見ていらっしゃいます。いじの悪い子はしかたがありません。先生にも母からくれぐれもお願いしてありますから強く正しくガンバりなさい。
昭和十九年九月二十九日
誰でもが自分の家から来るたよりを待ちこがれているでしよう。けれど二人は待ちこがれるなんぞと言う心持ちは起こらないでしょう。毎日一枚づつこちらからポストに入れておりますから。それですから今日は父が何を葉書に書いたろうと興味がわいて読んでいる事と遠くの方で父は思っています。それだけに父は今は何を書いて送ろうかと会社の帰りの電車の中で考えています。先ず家へ着いたら二人から何かたよりはありはしないかとたのしみにしています。(中略)
二十六日の強歩会の紀行文も読むのをたのしみに待っていますからぜひとも書いて送って下さい。今夜もそれがたのしみで帰宅したがありませんでした所へ四島の小母さんが芙美代のたよりを持って来て下さいました。書取りの字は大変上手に書けてその上満点でうれしく思いました。クレオン画も久しぶりで見て上達したのに驚きました。よくを言えば近くの木をもっと強く書くのです。クレオンの使い方はあれでよろしいですから、遠景、中景、近景のくぎりをモツトハッキリなさい。知明のも送って下さい。待っていますヨ。
疎開するまでは兄達と一緒に父を囲んで勉強したものです。
学科の予習復習はもとより、すべて父から手ほどきを受けました。