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続 表参道が燃えた日 (抜粋) 36

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通常 続 表参道が燃えた日 (抜粋) 36

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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2011/9/18 6:53
編集者  長老 居住地: メロウ倶楽部  投稿数: 4298

 母の手紙
 稲葉 正輝(いなば まさてる)その3

 さて、そちらでもお聞き及びの事かとも存じますが、実に実に信じられぬ悲報を御報告せねばなりません。私はこの事を書くのでさえも苦痛でございます。

 それは二十五日空襲にて、ほとんど全部の御親類方全焼されましたが、九段方面はひかくてき大丈夫と聞いて居りましたので、A様御案じしっつも御無事の事とばかり思って居りましたところが、実に実に思ひがけなくもお家は無論全焼にてB兄様がおなくなりになりました。はじめ皆様で消火につとめられましたが、やはり一面の火の海となり御門前空地の貯水槽につかって水をかぶりかぶり一夜をお明かしになりました由。朝になりお父様も無論貯水槽の中にいらっしゃるとばかり思っていらっしゃったところお姿はなく、御門前の道路のかどにうつ伏せになったまゝ煙にまかれて、たほれて居られました由。そばに二三人の人も焼死して居りましたが、お兄様は少しも焼けては居られず、すぐにお分かりになり、周囲だけ焼け残ったお家の洋館に安置されました。S氏が伺いました時には、もうお葬儀もすまされ、焼残ったマントルピースの上にお写真をかざられ枯れたお花一つ、お線香一本供へておありになった由。泣けて泣けてたまらなかったと申して居りました。お姉さまお子様方々お顔を少々のおやけど位にて御無事にて箱根にとりあへずお引上げになりましたとの事。

 あまりの事にどうしてもどうしても信じられず、お姉様やお子様方のことを考えますとお可哀想でお可哀想で遠方にて何一つおなぐさめも出来ず、私も只々涙を流して居りました。やっとの事でとりあえず箱根へお見舞差上げましたが、お返事いただき、自分たちもたすかったのが不思議なほどで、どうしても夢の様でまだぼんやりして居ると云っていらっしゃいました。これからはどんな事をしても、がんばって、Cさまが八月から兵隊へお出になる由にてかたきをうってもらうと云ってらっしゃいます。私も色々と御親切に力になっていただいてゐるお兄様を急に失ひ今後何彼と心細く本当にがっかりしてしまひました。やはりこちらへ立つ前日、青山の帰りにお目にかかったのが一生のお別れになってしまひました。相変わらず大元気でいらっしゃったのに夢の様でございます。』

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